野良馬ヒンヒン

思いつきを記録しています。下らぬものです。

映画 LIFE! を見て ---人生という神話とダメ男ブーム---

ベン・スティラーという小柄なコメディアンの俳優さんがいるらしく、その人が作ったLIFE! という映画がヒットしているようです。

 

休刊するLIFE誌のネガ整理係は夢想家でさえない中年だが、失われた最終号の表紙のネガを求め、世界中に冒険に出かけるというお話です。

 

なんとなく見に行きました。最初は訳が分からず意味不明で、これは失敗したなと思ってました。

 

最終号の表紙用のネガが不明になれば、わざわざ冒険に出かけなくても、素直にそれを伝えればいいのに、とか、なんで一カメラマンがそんなに力を持っているのか、なんて現実的に考えたりしました。どうもリアリティとしてつじつまが合わないような、ギクシャクした前半です。

 

しかしある瞬間から、これは現実のお話ではなく、寓話なのだ、と気づきます。映画にそうした要素が部分的に差し込まれているのではなく、この壮大な映画全体が、巨大な暗喩なのでしょう。

 

主人公は、自分が探し求めていたカリスマカメラマンのショーンは、最終の表紙に使うネガを持ったまま取材旅行に出ているのだろう、と考え、アイスランドグリーンランドを探し歩くのですが、常にあと一歩のところで出会えません。

 

九死に一生の大冒険の末、会社に戻ると、ネガを紛失したと練れ衣を着させられ、馘首になった主人公は家に戻ってきます。しかしそこで母親が、ショーンならこの前、この家に写真を撮影に来たわよ、と言います。主人公もなぜそれを早く言わないんだ、となります。

 

さすがに、これはあんまりにも人を食った話です。そこで鈍感な自分も、ようやくこれはまともにリアリティを求めてはいけない哲学的・神話的な寓話なのだ、と気づきました。

 

これはLIFE(=人生)を象徴的に凝縮したお話だ、たとえば十牛図のようなものだ、と感じました。

 

十牛図とは、仏教の悟りを得るまでの心の動きを、子供と牛の描かれた十枚の絵で暗喩し、象徴し、表現しています。

 

この映画は、人生におこるさまざまなことを各エピソードに託し、つなげた巨大な寓話だと思うのです。

 

例えば周囲に馬鹿にされるような勇気のない小男が、みんなのピンチには誰もなしえないような大冒険を成し遂げたり、その道中、すんでのところで探し物を逃し続けたり、あきらめたころに、その探し物は灯台下暗しで、実は手元に潜んでいたり、神様(ショーン)は気まぐれに災難をあたえるが慈悲深かったり、どこかに思わぬ助っ人が潜んでいたり…。

 

最初からそのつもりで見ていれば、もっと多くのヒントに気づき、この映画全体を理解できたでしょう。一回ではそこまでいけませんでしたが、もう一度見たいような、もう一度は厳しいような。。

 

でもとても深い映画で、これを製作し、まとめあげたベン・スティラーというひとは一種の天才ではないかと思います。また表面的に単なる奇想天外な冒険ラブストーリーのように報じる向きもありますが、これはむしろ内面の映画です。

 

なにかに行き詰った感のある人はぜひ見ていただきたいです。またいろんな解釈ができそうなので、見た方は感想をネット上にアップされるとうれしいです。

 

たしか公開時に99の岡村さんが、この映画の宣伝をしていたように思うのですが、小柄で繊細で、なにか爆発的な潜在能力をもってそうな感じは、主人公に似ており、また年齢や独身であり、何やらこじらせている感じもすごくぴったりで、これを思いついた人は素晴らしいなと思います。

 

この映画を見た日は、ポール・ポッツのワンチャンスという映画も見たのですが、これもまたもてないダメ男が主人公。身につまされました。そして村上春樹の新作の名前は「女のいない男たち」。2014年はダメ男が静かなブームか(それに乗れるか)。