用があって東京へ赴いた。
当てにしていた場所が痛恨の特別休業で憤怒ののちに嘆息し、仕方がないので町歩きをしながら帰ろうとなった。
歩いていると見る南麻布という地名にでた。よく聞く高級住宅地だ。ここがそうかとキョロキョロしながら歩いた。
それにしても移動の便が悪い。だからこそ奥座敷のような高級地帯になったのかもしれない。さりげなく大使館の案内などもある。
幹線道路を歩いてみると、確かに高そうな新しい建物や店も多いけど、意外にも工業系の中小企業といった風情の小さめの古いビルや、やはり築年数の経ったマンションも多い。京浜工業地帯も近いのだ。むしろ懐かしい東京といった景色に見えた。
関東の北のバンド系不良は国鉄の菜っ葉服を着たアナーキーみたいなごつい感じがするけど、東京の南の不良は、京浜工業地帯で育ったラッツアンドスターみたいなちょっと水商売っぽい色気があった気がする。
昼間は川崎南部や大田区あたりでツナギを着て油にまみれ、夕方にはジャケット羽織ってポマード塗りこんで、第一京浜をすっ飛ばして赤坂あたりのディスコにでも来たんじゃないだろうか。これも地のことわりかもしれない。
ここにいる地元の人はどういう生活なのか、こういうところで育つとどうなるのか、フワフワ歩きながら考える。
この人はいつか大きな賞を取るだろう。もう階段を上る姿が見えるよう。
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