野良馬ヒンヒン

思いつきを記録しています。下らぬものです。

内省的なリズムマシーン TR808

25年以上、古い王道のロック音楽が好き。

ビートルズとかザ・バンドとか。

ソウルミュージックも60年代のメンフィスのリズム・アンド・ブルースが好き。

古くてもダサくても生々しい躍動感の方が好み。

 

だからリズムマシーンの音もダンス音楽も好みじゃない。

でもTR808というリズムマシーンを作ったローランドの梯郁太郎さんが

亡くなられたという記事を読んだら興味が出てきた。

www.huffingtonpost.jp

 

梯さんは戦後結核で体を壊したがストレプトマイシンで復活。

独学で時計・ラジオの修理を学んだ。

その後、バロック音楽のオルガンに惹かれ、自らもそれを弾きたいと考えた。

そこで電気的なオルガンを制作し始めたのがローランドの始まり。

 

ローランドはTR808という簡単にプログラミングのできる画期的なリズムマシン

発表したが当初は市場に受け入れられず低評価。

だが後年その独特な音色がダンスシーンでカルト的な人気を集めることになった。

 

なぜ808だけ特別なの?

ダンス音楽に興味なくてもその名前だけは聴いたことがある。

 

そこでなんとなく調べていたら昔自分が好きだったワールドパーティーという

ユニットが使っていた音色に似てると気づいた。たぶんそうだと思う。

 

そしてスガシカオが一枚目を作った時のリズムマシンもそうだと思う。

人力検索で尋ねたら回答なかったけど)

どっちも確信はないけど、808かインスパイア音源ではないだろうか。

youtu.be

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ダンスミュージックばりばりじゃなくても、こういう使い方もあるようだし、

それもどちらも大変内向的な音楽の中に馴染んでいる。

808の音は絶妙な余韻がるような気がする。

それが儚さにつながっている。

 

そして1982年にはマーヴィンゲイが808を使って名作を作り上げている。

スガシカオの黄金の月のイントロは、マーヴィンのこの曲に影響されてるように聴こえる。

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スーパースターのマーヴィンは、自分ところのレーベル令嬢と離婚したら、

会社を追い出され慰謝料を取られ散々な目に遭い、金もなかった。

ベルギーに移り住んで、レコードを作ろうとするものの、

予算は小さくバンドも雇えない。

 

そこでリズムマシン808をバンド代わりに買い込んでコツコツ打込み始めたらしい。

なんか泣ける。まあ元ドラマーだし、できるでしょうけども。

  

そしてギター以外はほとんど一人で作り上げたアルバムがミッドナイト・ラブ。

大ヒット&グラミー賞。よかったね。でもその後、不慮の死を迎えてしまう。

 

そんなストーリーを知っているせいか否か、このアルバムもどこか寂し気に聴こえる。

けっこうなダンスナンバーも入っているのだけど、どこか抑えられている。

そこに客観があるように思えてしまう。

 

バックのリズムは808。抑制された地味な音色に、どうにもわびさびが効いている。

 電子音楽の響きは通常ピコピコと評されるが、808のそれはポコポコである。

トーンがちょっと低い。

 

内省と享楽。なんと魅力的な音楽でしょう。

プリンスと邂逅しなかったのだろうか。

 

ローランドはその後TR909という機械を売り出す。

しかしこれは808よりも少し弾んだような軽くて明るめの音色なのだ。

なんとなく80年代にはやった電子どらむっぽい感じ。

 

ダンスシーンは享楽的なものであろうから、

楽しく明るい音色が好まれる、というのは当然だろう。

その後、世界のリズムマシーンはどれも明るく抜けのいい、

トレブリーな音色になっていったようだ。

しかし今でもなり続けているのは808である。

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これは909系の音色を比べた動画。

 

現代では808を使うのは、 逆にワザと安っぽく狙ってるという見方もあるようだ。

たしかに808の音色は地味だ。落ち着いている。本物ドラムに比べれば薄い。

だがそれゆえに侘びさびがある。飽きが来ない。

だから流行り廃りに関係なく使われ続けているし、

内省的な音楽にもマッチしているのかもしれない。