相模原に住んでいたことがあった。
北口の長い商店街の一番奥に病院があって、その100mほど手前の西側にカウンターだけの小さな中華屋さんがあった。名前は忘れた。
中華料理というより、中華定食屋さんという風情だが、餃子やチャーハン、麺類と何を食べても美味かった。中でもうまくて何度も食べた定食があった。
油淋鶏のようなもも肉の唐揚げをとんかつのようにサクサクと刻んで、その上にかき玉のあんかけが掛かっていた。あんかけは上品な黄金色で、塩と鶏ガラスープで味付けられていたように思う。サクサクの鶏肉はアツアツのジューシーで、ふわとろのあんかけは優しい玉子味だった。ふたつが合わさった部分は鶏を包んだ薄い衣がしっとりとしていて、それもまた美味かった。
バイトで金が入るとそこに通って食べた。
店主の人は眉毛の濃い50代くらいの人で、愛想がよく、いい人だった。互いにニコニコ挨拶して、注文、食事、勘定でお別れで話し込んだこともなかったけど、一度だけ、「久しぶりですね」と声をかけてもらったことがあった。こちらは学生の不器用さでハイ、ドウモとにこにこするだけで情けなかった。
なぜか店内にはSLの写真が沢山飾ってあり、一枚だけ柔道の山下さんの写真があった。
そこを離れてから7年後、再び訪ねたが、もう店はなかった。