まだ三分の一程度。その中で重く印象に残ったのが、大戦中の日本海軍の船が沈むときのエピソード。吉村昭は戦艦陸奥・武蔵・大和などについて書いた本を残している(未読)。
戦時中、沈んだ軍船から、ある海岸地域に漂い着いた多数の兵隊の遺体が上がった。なぜか手のないものが多かった。戦後、その地域によった吉村昭が古老にその訳を尋ねたが、昔、憲兵に口止めされたからと言ってしゃべってくれない。もう戦後二十五年も経っているというのに。
話すことが亡くなった人の供養になるからと吉村が説得を続け、ようやく聞きだした内容が重かった。
船が沈むと将校たちが優先的に小舟に乗る。溺れる一般の兵士たちは、その小舟の船べりに手をかける。すると小舟が沈まないように、将校たちは持っている刀で、しがみつく兵士たちの手を斬るという。それを生き残った兵士から聞いたという。
沈む船と共に船長は最後まで残る、という逸話をよく聞いたものだが、船長については書かれていない。