話題のヴェンダースx 役所広司の映画、パーフェクトデイズを観てきた。
面白かった。
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役所広司演ずる平山は、スカイツリー周辺の古いアパートに一人で暮らすトイレの掃除夫。
無口だが仕事熱心な職人肌。朝起きて布団をたたみ、盆栽に霧を拭いて、きちんと身支度をして表に出る。小さな自販機で買う朝食代わりの缶コーヒーを飲み、軽バンに乗り込み現場に向かう。きっちり仕事を仕上げたら、夕方は銭湯へ。その後、飲み屋で一杯という毎日を崩さない。
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外国人監督が東京を撮ると、こういう映画になるのかという場面が多い。陰影の深い街、特に東京の東側の下町は、もう一人の主人公に見える。
特に初っ端の数カットは見慣れてるはずの町の風景。だがどこからしら光陰の射し方や色合いや角度が違う。外国人監督だからだろうか。なんとなくおとぎ話の入り口に見える
多くのシーンの柔らかく明るい映像が印象的だが、反対に中心にあるイメージはおそらく「影」。
例えば平山が眠るときに見るモノクロの夢。フィルムのコンパクトカメラで撮る木洩れ日。木陰をもたらす神社。ラストで行われる行為。平山が就いている仕事は社会の日陰の仕事だし、主な舞台となる東京の東側というのは、東京の影の部分と言えなくもない。
そして平山の暮らしの中にあるものは、うつろう影のようにやがて消えてゆくが多い。フィルムカメラ、現像屋、下町、銭湯、カセットテープ、古本、本、古いアパート…。下町に近づく再開発の予感もなくはない。
さらに外国人から見ると日本にしかないものがモチーフになっている。軽自動車、きれいな公衆トイレ、神社、ドリンクの自販機、缶コーヒー、畳の部屋。これもこじつければ、西洋から見た東洋という傘の影の下の文化なのかもしれない。
こうした題材を集めて無理なくつなげ、何か起こりそうで起こらない、予感に満ちた物語。観る側がイメージや憶測で物語の背景や、その後を膨らませるタイプの映画。
何も起こらないというのは、物語の展開を軸にするのではなく、人物と生活、設定をそのまま見て欲しいということだろう。
そういえば主人公には職場の仕事仲間以外に友人というものがいない。昔の大人は友達友達と言わなかった気がする。平山には一人自立している様子がある。そもそも人間は一人では幸せにはなれないのだろうか。平山の最後の笑顔が印象的だ。
古き良き日本人の生活と気質、消えゆく生活。コレを日本人が撮ってもあまり話題にならないかもしれないけど、こうやってヴェンダースと役所広司に見せられるとやっぱり新鮮で良い。
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平山が聴いている(=劇中に流れる)音楽もとても良い。アニマルズ、ルー・リード、パティ・スミス、ヴァン・モリソン…。特にルー・リードのアルバム『トランスフォーマー』は印象的に劇中に登場し、アルバムからのパーフェクトデイという曲が映画の題名になっている。
陰鬱なメロディで始まる歌は、なんということのない、それでいて美しい休日を描写しながら始まる。
Just a perfect day Drink Sangria in the park
完璧な一日さ 公園でサンガリアを飲んだり
(中略)
I thought I was someone else, someone good
もっと素晴らしい誰かのように、自分を感じることができたよ
そして解放されたように高らかに
you just keep me hunging on
と歌われる。
訳詞方は色々あると思うが、
君のおかげで生きていられる…
という感じだろうか。
とてもおすすめ。